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巨大ショッピングモールにも負けない規模を誇り、売ってないものは無いとまでいわれる「統合購買部」。
そこには当然本を扱っているフロアがある。図書館以外で、密かにこの学園で気に入っているスポットだ。
そこで平積みされた新刊を眺めていると、見知った顔が視界を横切った。
御園「……」
何を買おうか迷っているというよりは、目当てのものが決まっている歩調。
御園は、雑誌コーナーの棚を物色し、一冊の月刊誌を手に取った。カラフルでファンシーなキャラクターが描かれた表紙。
……意外な一面かと思ったが、そのタイトルは
『月刊クロスワードライフ』
明らかにクロスワードの雑誌だった。
筧「おす」
御園「あ、こんにちは」
筧「そういや時々御園は部室でクロスワードやってるな」
御園「ええ」
筧「クロスワード、好きなのか?」
御園「いえ、そんなに」
筧「あそ」
俺も適当に図書館に入ってない文庫を買い、2人並んで部室へ向かう。
御園「筧先輩は、購買書店で何を買ったんですか?」
筧「なんだったかな」
俺は時々、中身や作家やタイトルを見ずに本を買う。知らない作家の方が、展開が読めなくて面白いことも
あるからだ。
だが御園は、少ない表情の変化の中に微かに呆れの成分を浮かばせた。
御園「知らない作家の知らない本を買うんですか」
筧「ああ」
御園「……それって、けっこう変だと思います」
筧「そうかもな」
御園「ま、別にいいですけど」

その後は特に会話も無いまま部室へ。
互いに買ってきた本を開き、ページをめくる。至福の読書タイムだ。
御園「……」
ちらっと様子を窺うと、御園はつっかえつっかえクロスワードパズルの解答ワードを書き込んでいる。
目を閉じてしばらく考えたり、腕組みをしたり。
御園「んー……」
しかしどうやら本格的に詰まったらしく、珍しいことにこちらに話しかけてきた。
御園「筧先輩」
筧「ん?」
御園「いつも私がクロスワードを解いてると、横から覗き込んで答をぼそっと呟いたりしますよね」
筧「いつも、ってほどじゃないと思うが」
御園「今日はやらないんですか?」
筧「まあ、その日の気分で、適当に」
御園「今日はやらないんですか?」
筧「……わかったよ。どんな問題なんだ?」
御園「回答欄は5文字です」
筧「既に埋まってる文字は」
御園「ありません」
筧「問題は?」
御園「日本で四番目に高い山」
筧「む……」
微妙にマイナーなところを突いてきた。これは難しいな。
本気になって記憶を掘り起こす。
……二番目が北岳、三番目が奥穂高岳だったはず。それに、これらの山
は5文字ではない。
と、なると……槍ヶ岳か?
確信はない。
筧「……他にヒントがほしいな。縦のカギとか横のカギで、まだ解いてない問題はないか」
御園「あります」
筧「じゃあそっちの問題を読んでみてくれないか」
御園「6文字です。世界一目の大きい動物」
筧「ダイオウイカかな」
御園「……なんで知ってるんですか」
変なものを見るような目つきで俺を見る御園。いや、そもそもクロスワードパズルってそういうもんだろ。
筧「雑学の本で読んだだけだ」
御園「じゃあさっきの四番目に高い山の二文字目は『い』です」
む。
槍ヶ岳じゃなかったか。
筧「他にまだ解いてない問いは?」
御園「これは実質四択ですね。源氏物語の登場人物の一人、六条御息所の一人娘が好んだ季節」
筧「秋だな。秋好中宮だろ」
御園「はやっ」
筧「まあ源氏はメジャーだし」
御園「……じゃ、一文字目は『あ』です」
筧「五文字のうち、頭の二文字が決まったってことだな」
御園「ええ。そこは『あい』ですね」
筧「ふむ、『あい』か……」
がちゃっ
扉が開き、鈴木が部室内をそっと覗き込んでくる。
筧「なにやってんだ」
鈴木「は、入ってもよろしいですか」
筧「いいに決まってるだろ」
鈴木「では失礼して」
おずおずと入ってくる鈴木。
御園「どうしたの」
鈴木「いや、その、なんか部室から愛がどうこうってお話が聞こえてきたんで、お邪魔かなと」
御園「ぶっ」
筧「……ちょっと待て」
珍しく御園が吹き出した。こんなに顔を赤くして笑ってる御園を見るのは珍しい。
御園「ふふふ……確かにあいの話、してました」
鈴木「ほらやっぱりー」
筧「今、俺たちはクロスワードパズルをやっててだな……」
しかし、変な笑いの壺にはまってしまったのか、御園はうずくまって笑い続けていた。
もう、山の名前はどうでもよさそうだった。

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